大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和50年(オ)367号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人大和田忠良の上告理由について

原判決及び本件記録によると、被上告人らは、本件公正証書に基づく強制競売により、上告人が所有し抵当権の設定された本件建物を競落し、その敷地である上告人所有の本件土地について法定地上権を取得したと主張し、上告人に対し本件土地の法定地上権設定登記手続を請求したところ、上告人において、本件公正証書は、訴外辺見イセが上告人の印鑑を冒用してその委任状その他の書類を偽造し、これを用いて公証人に作成させたものであるから、本件公正証書に基づいてされた本件建物の競売手続は無効であり、被上告人らは競落により本件建物所有権及び法定地上権を取得しえないと抗争したが、原審は、上告人の右主張のような場合であつても、競落許可決定が確定すれば競落人の所有権その他権利の取得には影響がないとして、右訴外人が本件公正証書作成嘱託及び執行受諾の意思表示につき上告人を代理する権限があるかどうかを確定することなく、被上告人らの請求を認容したことが明らかである。

しかしながら、債務者の代理人として公証人に公正証書の作成を嘱託し、執行受諾の意思表示をした者が、債務者を代理する権限を有しない場合は、その公正証書は、債務者に対する関係において債務名義としての効力がなく、これに基づき債務者所有の不動産についてされた強制競売手続は、債務名義なしにされたことになるから無効であり、右不動産の競落人は、債務者に対し所有権の取得その他競落の効果を主張することができないものと解するのが、相当である(最高裁昭和四九年(オ)第四〇〇号同五〇年七月二五日第三小法廷判決・民集二九巻六号一一七〇頁)。これに反する見解のもとに被上告人らの請求を認容した原判決には、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理を尽くさない違法があり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、更に右訴外人の代理権限の有無につき審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 環 昌一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例